洋装が一般化した今、着物を着る機会は非常に限られます。特に男の子の場合は、自身の結婚式か、子供の頃の七五三か…という程度。そのため、着物の「柄」と言っても、どんな種類があるのかピンとこないのではないかと思います。そこでここでは、男の子の七五三の着物によく見られる柄とその意味、特徴についてご紹介したいと思います。
お祝いの儀式である七五三にふさわしい柄が中心
五歳の男の子が行う七五三は、平安時代の「袴着(はかまぎ)」「着袴(ちゃっこ)」のお祝いがルーツとされています。伝統的な儀式であり、お祝いの晴れの日であるため、着用するのは普段着やおでかけ着として着る着物とは一線を画する、礼装と言われる格式の高い着物です。そのため、着物に描かれる柄も格調の高い柄、縁起の良い柄が中心です。
そのひとつが、中国の思想や信仰などで、良い兆し、おめでたい印として広く使われる吉祥文様。男の子では「宝尽くし」と呼ばれる縁起の良い宝物を散りばめた柄や、正六角形で亀の甲羅に似ていることから「亀甲」と呼ばれる柄などがよく見られます。その他、武将の勇壮活発な姿にあやかるよう、兜や軍配、矢羽根などの強く勇ましい道具をモチーフにした柄や、剛健や大成、子孫繁栄などの意味や願いが込められた植物や動物の柄などもよく描かれます。
これらはすべて、男の子に対する「邪気や災いから守って欲しい」「強くたくましく育って欲しい」「試練や苦難を乗り越え飛躍して欲しい」といった親の気持ちが表れているのです。
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特別感のある豪華な装飾も、七五三の着物の特徴
冠婚葬祭や式典などの改まった場で着る礼装の着物で、「晴れ着」「祝い着」とも言われる七五三の着物。そこには生地の織りや染め、装飾などにも趣向を凝らした特別な技法が見られます。
例えば、生地への光の当たり方によって模様が浮き上がって見える地紋。男の子の着物の場合は、端正で品格があり、武家に好まれた紗綾形がよく使われます。紗綾形は、卍という漢字を斜めに崩して連続的に繋げた「不断長久」を意味する文様で、家の繁栄や長寿の願いが込められていると言われています。
また、おめでたい柄、縁起の良い柄を一層引き立てる装飾にも、手の込んだ美しい加工が用いられます。煌びやかな金や銀の箔加工、金糸・銀糸、色糸を用いた豪華絢爛な刺繍などがその一例です。品格と高級感を備えた見た目は、晴れの日の着物ならではの特徴。男の子の特別な一日を豪華に彩ります。
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男の子が強く、大成するように…の願いを込めた柄
男の子の七五三の着物は、勇壮で威厳のある、凛々しい柄が主流です。よく使われる柄や装飾には、どんな意味や特徴があるのかご紹介します。
兜
兜は、身体の中でも重要な頭を守るための道具であることから「邪気や災いから守られますように」という願いが込められています。現在のように高度な医療がなかった時代では、子供が健康で丈夫に育つためのお守りのように考えられていたのでしょう。また、豪華な飾りのある兜は権威と高い地位の象徴でもあります。これは、男の子がそのような兜をつけられるようにと出世、大成を願う意味も込められています。なお、兜の前正面に龍の頭をかたどった装飾が付いている場合が多く見られますが、これは龍頭と呼ばれるもので、中国では龍がたいへん縁起の良い動物とされることに由来しているようです。
鷹
空高くから地上の獲物を見つけ、鋭い爪で素早く捕獲する鷹。その特徴から、遠くまで見渡せる目は、本質を見抜く、先を見通す眼力を表し、がっちりと獲物を捕らえる爪は、一度つかんだ運や幸運を離さないということを表しています。先見の明で本質を見極め、着実に幸せをつかんで欲しいという願いが込められています。
軍配
現在では相撲の行司が使う道具としてよく知られていますが、戦場で武将が兵を指揮する際に使っていたものが軍配で、正式には軍配団扇と言います。組織をまとめ、動かすリーダーのように、知力や体力、決断力や行動力を持つ男の子になって欲しいという想いや、人生の節目や岐路で、進むべき道を踏み誤ることなく、より良い方向へ進めるようにという想いを表している柄です。
打ち出の小槌
昔話の一寸法師にも出てくる打ち出の小槌。その物語にあるように、願い事を唱えながら小槌を振ると、願ったものが出てくる…というものです。このことから、人生においてモノやお金に困らない、どんな願いも叶うということを表しています。兜や鷹の柄のように、背面中央にメインで描かれることはあまりないですが、男の子の七五三の着物では、袖や裾などによく描かれます。
宝尽くし
中国の吉祥思想のひとつ「八宝」から来ており、打ち出の小槌、巻き軸、宝珠、隠れ蓑、分銅、丁子など縁起が良いとされる宝物がいくつか組み合わせて描かれます。この宝物の種類は、時代や地域によって異なります。福徳を招く柄とされ、七五三の着物の柄としては、女の子よりも男の子に多く見られます。
金駒刺繍
駒と呼ばれる特殊な糸巻きに巻き付けた太い金糸を下絵に沿って置き、駒を転がしながら別糸で目立たないように押さえて模様を作り出す刺繍技法のひとつです。着物に描かれた柄の輪郭線を縁取ったり、柄全体を立体的に強調したりするのに使われ、たいへん豪華で高級感のある見た目になります。
金彩加工
柄が染め上げられた生地に金や銀の箔、金泥や金粉などを密着加工することを金彩加工と言います。さまざまな技法があり、表現の幅も多彩。着物の柄がより美しくゴージャスに映え、晴れ着の品格を高めます。
その他にも、馬に跨った勇ましい「武将」や、中国では百獣の王とされる「虎」、縁起の良い聖獣とされる「龍」などの柄も多く見られます。虎や龍は、お子様の名前や生まれ年などにあやかって好まれる柄のひとつでもあります。
近年は袴のデザインもバリエーション豊富
多くの場合、勇壮かつ豪華な柄が描かれるのは着物の方ですが、近年は袴も色や柄などデザインのバリエーションが豊富です。縦縞や無地などの古典的な雰囲気のものから、裾から脚にかけてグラデーションカラーになったもの、豪華な柄が織り出されたものなど実に多様です。また、レンタルや購入するショップによっては、着物と袴を自由にセレクトして好みのコーディネートを楽しむことができます。
なお、レンタルおよび購入した袴には、2箇所、横向きのシワが入っているケースがよく見られます。実際に目にすると、着用の前にアイロンで伸ばさなくていいの…?袴のアイロンの掛け方って…?と不安になるかも知れません。ですがこのシワは、袴が正しく丁寧に畳んで保管されていたことによってできる折り跡です。シワというより折り目と捉える方が適当で、アイロンなどがない時代は気にせずそのまま着用されていました。そのため現代でも、特に直す必要があるシワではないと認識いただいて問題ありません。
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最後に
どんなに時代が変わっても、親が子を想う気持ちは同じなのではないでしょうか。七五三は男の子が着物を着る貴重な機会ですから、柄の意味や、そこに込められた願いなども考えながら選んであげたいですね。また、そんなふうにこだわって選んだ柄について、お子様に説明してあげると、七五三の想い出がより深いものになるのではないでしょうか。
晴れ着の丸昌 横浜店では、伝統的な古典柄を中心に、男の子用の七五三衣裳を多彩にご用意しております。ぜひ間近で柄をご覧いただき、ご試着もされながら、お気に入りの一着を見つけてみてください。
ショールームには、このページでご紹介しているもの以外にも、男の子の七五三衣裳を多数ご用意しております。