フォーマルな場に花を添える訪問着
暖かく爽やかな日の続く4月は、結婚式などのお祝い事も多いのではないでしょうか。
そのような慶事に招かれた場合、新郎新婦のご両親以外であれば、留袖の次に格が高い訪問着を着るのがふさわしいでしょう。
訪問着は、模様が一枚の絵のように断ち目をこえてつながっている「絵羽模様」が特徴で、結婚式や披露宴のほか、例えば長寿を祝う会や記念パーティなど、フォーマルなお集まりの場に花を添える着物です。
入学式や入社式、新学期に新年度など、4月は新たなスタートの節目となる行事が多い月。
4月の別名、卯月の由来は卯の花が咲く月という説とともに「卯」が「初」を意味し、
自然の営みが始まるという説があります。
植物が芽吹き花を咲かせるさまを見ていると、私たちも心が和み、
オシャレをして外へ出かけたくなるものです。
暖かく爽やかな日の続く4月は、結婚式などのお祝い事も多いのではないでしょうか。
そのような慶事に招かれた場合、新郎新婦のご両親以外であれば、留袖の次に格が高い訪問着を着るのがふさわしいでしょう。
訪問着は、模様が一枚の絵のように断ち目をこえてつながっている「絵羽模様」が特徴で、結婚式や披露宴のほか、例えば長寿を祝う会や記念パーティなど、フォーマルなお集まりの場に花を添える着物です。
今回は、職場の後輩の披露宴に出席する40代女性の礼装をコーディネートしました。昨今は披露宴にもレストランやガーデンパーティなど、さまざまなスタイルがありますが、ここでは伝統的な結婚式場での披露宴を想定。お祝いの席にふさわしい格があり、春らしい装いであることがコンセプトです。華やかでありながらも、年齢相応の落ち着きや慎ましさがあることにも重点をおきました。
春の爽やかな空を思わせるような薄水色に、梅、菊といった四季の草花が描かれた友禅の訪問着。前身衣に描かれた草花が斜めの道長模様になっているためとてもスマートに見え、華やかさと優しさを兼ね備えた一枚。
正倉院文様の華文が織りだされた錦織の袋帯。前には瑞鳥も織られており婚礼にふさわしい品格。帯締めは着物の地色に合わせた薄水色で、金糸を織り込んだ格調高い平組。
帯揚げは帯から一色とったごく薄いピンク地。重ね衿もベージュがかかったピンクの無地。ほんのりとした色合いは顔色を良く見せてくれる効果が。
着物や帯とトーンを合わせた、プラチナゴールドの草履&バッグ。慶事にふさわしい華やかさはあるものの、光沢が控えめなので主張しすぎず上品な印象に。
菊、梅、桜などの、さまざまな四季の花々がのびやかに咲き誇るこの訪問着は、花に囲まれているような気分になります。新郎新婦の門出にふさわしい装いです。
礼装は一昔前と比べて色目も明るく華やかな着物が好まれる傾向にあります。昔は30代までかなと言われていたような色柄も、今は50代でよくお似合いになることがとても多いと感じています。
着物とは、四季の移り変わりにそった衣裳ですので、春は春らしく、秋は秋らしく、そのことを意識して色柄を選ばれると良いでしょう。
この訪問着の場合、やわらかな色地に咲き誇る花々の華やかな柄が春らしさを感じさせてくれます。
そのうえ、前身衣に斜めに大きく流れる柄行なので、スマートに見える視覚効果もあります。
帯は着物の上に置いてみることで、帯の持つ魅力や着物との相性がはっきりわかります。
着物がどんなに華やかでも、帯との格が合わないと良い組み合わせになりません。ですが、良い組み合わせなら、着たときに着物は帯によって、帯は着物によって、互いに引き立つものなのです。
この帯は吉祥文と呼ばれる瑞鳥や菊があしらわれ、お祝いの席にぴったり。瑞鳥が入っていると格調高くなります。使われている金糸銀糸の多少の加減もよく、着物のソフトなトーンに合っています。
帯は本当に不思議なもので、同じ訪問着でも帯次第で、派手にも地味にもなります。同じ着物を、歳を重ねても着られるようにしてくれる、コーディネートの調整役と言えます。
わずかな面積ですが、重ね衿、帯揚げ、帯締めの3つは、全体のイメージを決めるといっても良い「着姿の要」です。基本の考え方は「2:1」の割合。3つのうち2つの色をそろえるのがポイントです。
今回のコーディネートでは、帯締めをブルー系、重ね衿と帯揚げをピンク系にしました。帯締めは着姿の中央に位置し、この3つの中でも特に目立つ部分です。ブルーは清々しく年代相応の落ち着きも出してくれる色。着物に入っている色の一色をとるとしっくりきます。
重ね衿は、10~20代の方ならビビッドな色もマッチしますが、年齢を重ねてからは着物の地色の濃淡にするときれいに見えます。ここでは着物の重ね衿とほどよいコントラストをなすピンク系を選びました。帯揚げもごく薄いピンクに、花の絞りが入った優しい雰囲気で。
ピンクは苦手、という方もおられるかも知れませんが、ピンクは年代を問わず、日本人の肌をきれいに見せてくれる色です。お若い方ならやや濃いめのピンク、年齢を重ねるほどに薄めのピンクにすれば肌なじみが良くなります。
※帯や小物は丸昌のコーディネーターによる
お見計らいとなります。
松や梅の木々の間を、鶴が飛び交っている春らしい訪問着は、型絵染めの人間国宝、芹澤銈介(せりざわ けいすけ)氏の手によるもの。地色もやわらかな白金(しろがね)色で、季節の雰囲気があります。
大久保先生「松や梅は吉祥柄なので春に限らず、お祝いごとやパーティに愛用しております」
帯はさび朱の地色に伝統柄として知られる狩猟文が織りだされた袋帯。格の高い文様かつ色数が抑えられたデザインです。
大久保先生「手持ちのいろいろな着物に合わせやすく、困ったときにはこれ! と重宝しています」
名物裂は室町〜桃山時代にかけて中国やインドなどから渡来した織物で、おもに茶碗や茶入れなどの名品を包む袋として用いられました。花や動物、幾何学などいくつもの伝統文様があり、それらの形や所有者にちなんだ名称がつけられています。私はこの名物裂の帯が大好き。気軽なお食事会から改まった席まで活用の場が幅広く、格調高いながらも控えめで周囲の好感度も高いので愛用しているんです。
1976年に某着物雑誌の制作に関わり、日本で初めて「きものスタイリスト」として紹介される。それ以降、ハースト婦人画報社、世界文化社、プレジデント社などの各雑誌、NHK、その他各種テレビ番組、着物取扱い業者のパンフレットなど、着物のスタイリングおよび着付けに幅広く携わる。十数年の日本舞踊の経験や、歌舞伎鑑賞を趣味としており、着物に関する奥行きの深い知識と美学を身につけている。常に、着る人の立場に立って、その人の持っている美しさを最大限に引き出すスタイリングと着付けには定評がある。